甘泉堂のとりどり最中
四条通を八坂さんに向かって左へ。
細い路地をくぐるように進むと そのお店はあります。
「甘泉堂」。
知らなければ 分からない お店。
でも、祇園には なくてはならない お店です。
以前、こんなことがありました。
わたしたちの師匠は御年78歳。
いつもツィードのジャケットを着ていて、背も高くて、
まるで 東映の俳優さんみたいな方です。
もちろん 往年のプレイボーイ。
わたしみたいな小娘の言葉なんて
「なにもかもお見通しだよ」って言われているようで、
ドキッとすることもしばしばです。
その方に、
甘泉堂の和菓子を差し上げました。
すると、思いがけないことが起こりました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「???」
「懐かしいなぁ〜」
「ご存じなんですか?」
「知っているも何も、思い出の場所で…」
と言ったきり、黙っておしまいになりました。
忘れられない 恋の場所でした。
出会いは 先斗町。
最初のデートは 「フランソア」。
今も脳裏に残るのは、白地に青の着物姿。
どこにでもいる恋人同士だった、と彼は言います。
ただひとつ 違ったのは、
彼は おしもおされぬ 立場の人。(詳しくは 書きませんが)
彼女は 祇園の芸妓さん。
けれど。
「ぼくは'旦那さん'ではなく、恋人だった」
彼は言いました。
女性の立場から見ると、
これは けっこう 複雑かもしれません。
女性は 言葉と心が同じではありませんから。
でも、
その女性は 旦那さん を持たないまま
芸妓として 生涯を貫いたといいます。
懐かしそうに、まぶしそうにお菓子を見つめた、
その方の顔に
嘘はなかったと わたしは思いたいです。
甘泉堂の「とりどり最中」は大きなもなかです。
春は大納言粒餡、夏は柚餡、秋は小豆漉し餡、冬は斗六粒餡(白あん)…
いつも 出迎えてくださるのは おばあさま。
注文してから あんをつめてくだいさいます。
甘泉堂
京都市東山区祇園東富永町
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